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2/19赤岳西壁主稜

雪をまとっただけなのに、山はどうしてあんなに荘厳で美しく変貌するのだろうか。真っ白な雪で装飾された岩稜は圧倒的な美しさでクライマーを魅了する。が、、美しいモノには棘がある。。。という訳で、赤岳西壁主稜である。

ワンデイでサクサクと駆け抜けるアルパインチックなクライミングスタイルに憧れる。今回は、八ヶ岳の冬期クライミングルートの中でも初中級ルートとして最も人気のあるルートの一つである赤岳西壁主稜(正式名称は赤岳西壁北峰リッジ)に、Kさんとワンデイでトライすることにした。

快晴の星空の中を、赤岳山荘の駐車場を出発、昨夜うっすらと降り積もった新雪が、歩を進めるたびにキュッキュッと小気味よい音を立てる。この音を聞くと冬山に来たんだなぁと実感する。
行者小屋までたっぷり2時間、夜もすっかり明けて朝日が山々を照らし出す。大同心、小同心、横岳西壁、赤岳西壁、阿弥陀岳、白く雪化粧した南八ヶ岳の山々に囲まれた行者小屋は山々をぐるりと見渡す箱庭のようだ。

文三郎尾根の急登を高度を上げていくにつれて赤岳西壁が雪をまとった要塞のように迫ってくる。頂上に突き上げる長〜い岩稜、赤岳主稜には既に数パーティーが取りついているのが見える。一般登山道から見るとものすごく険しいところを登っているように見える。あんなとこを登るのか。。。振り返ると朝日に輝く阿弥陀岳がすごい迫力で迫ってくる。真っ白なスカイライン、北稜を登るクライマーが見える。かっこいい。
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文三郎尾根から主稜への分岐のトラバース地点、ハーネス、ガチャを装着する。十数年ぶりとなる冬期バリエーションルートに否が応にも緊張感が高まる。初見のルートの取付きではいつも不安との戦いだ。ちゃんとルートファインディングできるだろうか、アイゼンの岩登りはこなせるか、プロテクションはしっかりしているのだろうか、ダメなときは途中敗退できるのか、装備は大丈夫か。。。。ここまでの登りで体を冷やしてしまい、体調も芳しくない。お天気もよく、山もきれいなんだから、一般ルートで赤岳登頂でも十分じゃないか。。。。
不安と言い訳をグッと飲み込んで、主稜取付きへのトラバースに歩を踏み出した。

1ピッチ目のビレイポイント、いきなり核心のチョックストーンⅣ-。自信のなさとプレッシャーに負けて、「Kさん、いってみますか?」思わず振ってしまった。。。小心者の僕の心を知ってか知らずか、Kさん、リードを快く引き受けてくれ、ナイスファイトの末にチョックストーンを超えて、ビレイ解除のコール。僕も、セカンドの安心感もあって、無事チョックストーンを超える。2ピッチ目、僕のリードの番だ。難しくはないが、プロテクションが極めて乏しく、失敗は許されない。今、落ちると出したロープ一杯、数十mの滑落か。難しくはないのだから、、、と自分に言い聞かせて、プレッシャーを打ち消すように慎重にアイゼンを踏み出し、アックスを振るう。ピッチの終了点、アンカーの何とありがたいことか、ビレイ解除。3ピッチ、4ピッチと夢中でロープを伸ばし、ひたすら高みを目指した。

途中、先行の初級者と思われるパーティーに1時間程度の待ち時間。冬壁の待ち時間は寒さとの戦いになるのが常である。が、気温は低く寒いものの、幸いにして今のところ風もほとんどなくお天気もよい。ちょっと一息、阿弥陀、北アルプス、中央アルプスの山々がよく見える。しかし、今日はさすがによい眺望に浸っている余裕はない。
結局、このパーティーを追い越し、ガイドパーティーに追い越され。

主稜の岩稜は長い。ピッチを重ねても重ねてもまだまだ稜線は高い。ところどころいやらしい岩峰も交えながら、急峻な岩稜がひたすら続く。技術的には易しいパートでも、急な斜面にぜいぜいと息が上がる。息を整え休み休みの登攀、こんなに体力なかったっけ。。。。見上げると南峰リッジの頂上直下の壁が真っ白に雪をまとって要塞のように立ちはだかっている。
高度が上がるにつれて風が強くなってきた。強風に体力、気力が奪われていくが、まだまだ急峻な斜面が続く。夢中で登っていて、ピッチ数が良くわからなくなっていた。10ピッチ程度登っただろうか、立ちふさがる岩峰の凹角を超えると急に傾斜が緩くなった。一層強さを増した風の中をコンテに切り替えて少し歩くとよく踏み固められたトレース、一般登山道だ。あぁ、やっと抜けた、、、達成感というより何とも言えない安堵感。頂上はすぐそこだ。
2899m赤岳山頂、360度の大展望。素晴らしい眺望をゆっくり堪能する間もなく、吹きすさぶ強風に追われるようにして頂上を後にした。

下山はより一層慎重に、文三郎尾根の急な登山道をアイゼンを効かせながら駆け下る。高度が下がるにつれて風もなくなり、赤岳はまた朝のような穏やかな表情を見せてくれた。
文三郎尾根からは主稜が一望できる。そこが取付きのチョックストーン、あそこが傾斜の強い雪壁、あそこが最後の凹角、、、無意識のうちに辿ってきた岩稜のラインを目で追っていた。たった今、辿ってきた岩稜のライン、あそこを登ってきたのかぁ。朝の取付き前とは全く見方が変わっていて感慨深い。
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日曜日の夕刻の行者小屋は、小屋も閉まり、人も少なくひっそりとして静かだ。クライマー、登山者の多い朝の賑わいとはまた別の表情を見せる。ガチャの整理をしながら、無事に戻って来たんだなぁとしみじみと思う。山行で「無事に戻って来た」なんて滅多に思わないが、今回はそれだけ緊張や不安も大きかったのだろう。
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十数年ぶりの雪山復帰で、天狗岳一般ルート、広沢寺アイゼントレ、深雪トレから赤岳主稜への急仕上げのステップアップは流石にちょっとキツかった。体力不足、精神力不足、アイゼンの岩登りの技術不足、いろいろな課題を突き付けられた。

真っ白な赤岳主稜の岩稜が、夕刻の日差しで微かに赤みを帯びてきた。山頂に突き上げるその長い岩稜はホントに美しいラインだ。だが、今の僕にはピリッと辛いラインでもあった。美しいモノには棘がある。。。
まだまだ修行が足らんなぁwww

微かに赤く染まり始めた南八ヶ岳の山々は朝にも増して美しい。もう一度だけ山々を見渡し、ひっそりと静かな行者小屋を背に、美濃戸への登山道を下った。
今朝と変わらず、真っ白な雪がキュッキュッと小気味良い音を奏でた。

コースタイム
4:50赤岳山荘駐車場-7:00行者小屋7:30-8:20主稜分岐点(トラバース地点)8:40-8:50主稜取付き(登攀開始)-14:15一般登山道-14:30赤岳山頂14:40-15:20行者小屋15:40-16:40赤岳山荘駐車場

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