2024.5.25 御在所岳前尾根

2024.5.25 御在所岳前尾根

遂に東海岩場デビューで、御在所岳前尾根に行ってきた。アルパインクライミング教本で、小川山ガマルートと共にトレーニングルートとして掲載されているだけあって、僕のような初心者でごった返していた。しかし、P7渋滞をP7スラブ側にルートを取って回避し、P5はコンテですり抜け、ヤグラ(P2)に登る時間を十分に確保した。それから懸垂でP2取り付きに戻り、藤内沢側のサスペンション(5.10b)でフリーの厳しさを味わい、前壁ルンゼから下山した。

メンバーは、Ftさん、Tbさん、僕(Sz)の3人。リーダーのFtさんからは「前尾根は2人(Tb&Sz)に全部リードしてもらうので、よくよく準備しておいて下さい」と言われ、前尾根について色々調べたが、どうも本によって言うことが違う。全くの初心者がいきなり登るルートという説明もあれば、日本100岩場では「P7とP6は初心者には難しくエスケープすることもできる」とある。「どっちなん?」と思いながらも、最後は、「まあ、さすがに全く登れないようなことはないだろう」と割り切ってスタートした。

裏道登山口駐車場から道路少し下り、トンネルをくぐった先で左に曲がって裏道登山道に入った。沢沿いの道を歩くとすぐに巨大な堰堤をくぐる。途中藤内小屋でトイレ休憩をし、15分ほど岩々の道を登り藤内壁出合いに到着した。

気持ちのいい沢沿いの道を行く
藤内小屋のようす
藤内小屋を越えるとすぐに前尾根が見える
やはり撮ってしまう藤内壁出合
藤内壁出合から先は当たり前だが険しい

藤内壁出合から少し行った所で、3人の荷物を一つにまとめ、僕のBDブリッツ28に詰め込んだ。マルチピッチでは、基本フォローがザックを担いで行くことになる。今回はTbさんと僕にリードをほぼ任せてくれたFtさんが粗方担いでくれた。しかし、無駄なもの持つ癖のある僕の荷物が重かったようで、「重過ぎて笑える」と呆れられた。

有名なテスト岩を越え、P7取り付きにやって来た。案の定、ものすごい渋滞になっていた。Ftさんは「昼寝して待つしかないね…」と言いながらも、左手のP7スラブの様子を見に行った。僕とTbさんは最も簡単なノーマルルート(V)をリードするのが限界だと思っていたので、びびりながらFtさんの後ろ姿を見守った。すると、彼は様子見から帰って来るなり、「あっちから登りますか、あの渋滞はさすがに待てないでしょう」。なるほど…。いきなり序盤から計画が狂う、正にアルパインの洗礼を受ける。ルートはP7スラブのシミュレーション5.8を行くことになった。幸い、「いきなり落ちられても困るので、ここはリードしなくていいですよ」と言ってくれ、安堵した。

イヤらしいスラブ、シミュレーション5.8
Ftさんのリードを下から見守る

Ftさんが無事に登り切り、支点を構築し、「登ってどうぞ」と声が掛った。一番初心者であることをいいことに、重いザックをTbさんに託し、僕が2番手でスタートした。ちなみにフォローが登るときは、ロープの色(登る人の名前ではなく)で、「赤登ります!」と声を掛けるのが作法だ。またここは他のパーティーがいないのでいいが、基本名前を付けて、「Ftさん、赤登ります!」というと間違いがない。

シミュレーションに取付いてみると、やはり最初が難しかった。Ftさんの登りを見て、最初のムーブが核心だと分かったので、躊躇なくA0を選択した。そこから上はクラックに手がかかり、一旦少し楽になる。しかし、さらに上の横に走るクラックはそれほど手の掛かりが良くなく、アンダーでしっかり掴みながら慎重に登り切った。ちなみに、登り切った後、僕は支点の辺りに残置されていたロープにセルフを取ってしまい、Ftさんに「こんな残置ロープにセルフ取ったら駄目ですよ」と注意される。こういう時は太い木の枝などでセルフを取るべきだが、最初は60㎝スリングで一人だけセルフを取ってしまった。その後Tbさんが上がってくると、「一人だけセルフ取ってないで、Tbさんも取れるようにしてあげて」とまた注意され、気がまだまだ回らない経験不足を実感した。スリングを120cmに交換し、Tbさんにもそこからセルフを取ってもらった。

P7からP6取り付きまでは少し歩く。取り付きに来ると、2組待ちほどの渋滞。リッジルートが空いたので、今度は僕のリードでスタート。序盤はかなり易しい登りで全く問題なし。しかし、最後に少し乗越す所がなかなかうまくいかない。フレークがありが手は掛かるのだが、少し浅く安定しない。後からFtさんに聞くと、しっかり手が掛からないのはみんな同じだが、そこを体のバランスでうまくカバーしないといけないようだ。残念ながらまたしてもA0で乗越した。

ここからP5のノーマルルートは3級とかなり簡単なので、ロープは出さずにするりと抜ける。ここでも2、3組をパスした。最後だけ少し危ないトラバースがあるので、Ftさんが先に上がり、上で肩がらみビレイをしながら僕を確保してくれた。上に上がると同じように僕がTbさんを確保した。この肩がらみビレイは、クライマーが落ちると止めることは容易ではなく、しっかり踏ん張れる体勢を取ることが重要だとFtさんに教わった。この時は、僕は安定した場所に座り、足を岩の出っ張りに押さえつけながらビレイした。

次はP4。ここは一番簡単な北谷側の凹角ルート(Ⅲ)を行くかと思いきや、Ftさんからは藤内沢側のすべり台(Ⅳ~Ⅴ)との指示があった。

P4すべり台の取り付き
結構登ってきた

P4のすべり台からの景色

ここはTbさんのリードで行く。下部はクラックのレイバックでカムを効かせながら登っていく。そして上部はあまり下からは見えにくいのだが、かなり高度感がありそうだ。下から見ていると、Tbさんがかなり苦戦しているように見えた。Ftさんと心配しながら見守る。怪しげな動きの後にTbさんは何とか登り切った。この時にどこでピッチを切るかで重要なポイントを学んだ。TbさんはP4を登りきった所でピッチを切りたいと主張したが、「(上部はフェイスになるので)ロープの屈曲に気を付けないと、ロープの引き上げが難しくなる」とFtさんはフェイスの手前でピッチを切った方がいいと教えてくれた。結局、Tbさんは登りきった所でピッチを切ったが、実際かなりロープの引き上げに苦労した。同じ理由でカムを使う時は、カムに付いているカラビナに直接ロープを通すのは良くない。カムの布部分にアルパインヌンチャクを掛け、カムからロープへの距離を出すことで、ロープの屈曲を防ぐことができる。

次は僕がフォローで登る。下部はクラックが2本縦に走っていて、左を選択するとやたらと登りにくい。下からFtさんが「右の方が登り易いよ」と指示を出してくれ、右に軌道修正するとあっさり登ることができた。しかし、この上のフェイスが手強かった。登り自体はそれほど難しくないが、下が切れ落ちた高度感のあるフェイスで、かなり恐ろしい。「Tbさん、よくこれリードで行ったな…」

次はP3で相変わらずの渋滞。「ここは何故か日本100岩場では説明が飛ばされているんですよね」とFtさんに言うと、「そんなことないでしょ」。しかし、その事をでかい声で話していると、そこでクライマーをビレイしている男性が、「そうそう、説明ないですよね」と同意してくれた。Ftさんもスマホを見ながら、「本当、載ってないね…」。日本100岩場はどうにも分かりにくく、小川山クライミングガイドのようなトポが色んな岩場にあればとつい思ってしまう。

P3、相変わらずの大渋滞。中央左にヤグラが見える

このP3には3つほどのルートがあるそうだが、真ん中が正規ルートだそうだ。Ftさんにクラックが少し難しいと教えてもらい、僕のリードでスタート。前のフォローで登っている男性は、確かにそのクラックでプルプルしながら苦戦していたが、何故か僕にはあまり難しくなく、さらっと抜けることができた。クラックを抜けると、すぐにしっかりした終了点が2つほどあった。もう少し上まで行きたかったが、前のパーティーがまだいたのと、しっかりした終了点があるか謎だったので、ここでピッチを切ることにした。2人をフォローして、メインイベントのP2(ヤグラ)に向かった。

P3の手前からFtさんをビレイするSz

ヤグラは一番渋滞が酷かった。大分から来たという7、8人のパーティーが占拠し、しかも猛烈に遅い。通路から一段上がった所で3人で本格的な待ちに入る。僕らの後ろのパーティーはヤグラに着くなり、みんな諦めて帰って行ったので、僕らがヤグラの殿になった。ちょうど待っている時、藤内沢側のサスペンション(5.10b)をやっているパーティーがいた。下から見てもなかなかのムーヴで、興味をそそられる。Ftさんも興味を示していたので、「Ftさんトップロープ張ってくれないかな…」と密かに期待する。

P2ヤグラ、サスペンションを登るパーティー

やっと自分達の順番になった。時間短縮で、Ftさんは下で待っているという。そして、「下りてきたら、俺はサスペンションやるわ」。僕の希望で、その後時間があれば山頂に行ってもいいよとも言ってくれた。この前尾根をやる前に、ヤマレコやYAMAPでかなりレコを調べたが、山頂に行っているパーティーは皆無だった。それどころか、P2も大渋滞が日常らしく、P2手前で終了しているパーティーも多かった。「P2登らずに前尾根終了する選択肢ってあるか?」と思うのは僕だけだろうか…

ヤグラは長さもあまりなく、ルートも屈曲がなくまっすぐに見えたので、ダブルロープ1本で登ることにした。Tbさんのリード。カムをきめながら何とか上まで登りきり、「Szさんどうぞ!」。フォローで登っているからだが、ここも難しくなく余裕で登れるレベルだった。

リードでヤグラを登るTbさん
無事にヤグラを登りきり、上からの景色

ヤグラからは懸垂下降で取り付きに下りる。P1を経由して御在所岳山頂に行く場合も、一旦は取り付きに下りるルート取りのようだ。ダブルロープをラッペルリングに通し、末端をすっぽ抜け防止でオーバーハンドノット2回で連結する。ロープを2束に分け、支点側から下に1、2のリズムで下に投げた。「ロープダウン!」。Tbさんから下降を始めた。

P2から懸垂下降するTbさん

「Szさんどうぞ!」と声が掛り、準備を始めようとすると、Ftさんから「ちょっと待って!」のコールがかかる。特にアルパインでは、先に下りた人が必ずロープを引き戻しし、ちゃんと回収可能かどうか確認するのが必須で、それをTbさんがやっていなかったからのようだ。僕はロープの引き戻しは、下から上の人への「どうぞ」の合図だけかと思っていたが、考えれば当たり前のルーティンだ。

ロープが流れることの確認が終わり、再び「どうぞ!」の声がかかった。デュアルコネクトアジャストのランヤードにトランゴのムーア2(確保器/下降器)を取り付け、ロープを通す。ムーア2の下にエーデルリットのアラミドコードスリングでバックアップを取った。それぞれの効きを確認して、セルフを解除、下降を始めた。確保器をハーネスのビレイループに連結せず、ランヤードで伸ばして下降するのにも大分慣れて来た。

サスペンション5.10b

取付きに戻ると、お楽しみ時間だ。Ftさんがサスペンション5.10bに挑む。序盤が核心のようで、左上している中央のクラックにハンドジャムし、足もねじ込んで登る。

サスペンション、ここからスタート

序盤のクラックに小さめのカムを3つかまし、安全を確保しながらFtさんは確実に登り切った。最初の核心後も右はあまり手がなく、左が簡単なようだ。Ftさんは登り切った後、「トップロープ張れるけど、どうする?」と聞いてくれたので、「やりたいです!」と即答。しかし、僕は全く歯が立たず、Tbさんに順番を譲った。Tbさんは僕よりも一段上まで行ったが、そこで断念。「うん?誰が支点を回収するんや?」と、当たり前の問題にここで気付く。Ftさんに回収をお願いするわけにはいかないので、僕が再チャレンジ。「張り張り・引っ張り上げ」TRで、何とかルートをたどり、支点まで辿り着いた。途中のクラックは全く手が入らない所が多いが、一か所しっかり左手が入る所があり、そこに手を掛けた後は、比較的すんなり体を引き上げることができる。掛け替えでロアーダウンして無事に支点を回収した。

必死に手をクラックにねじ込むSz

残念ながらここで時間切れで「撤収!」。前壁ルンゼから裏道登山道に合流し下山した。翌日は中尾根に行く予定だったが、雨が降ってしまいこれも残念ながら次回に持ち越し。まあ宿題を残しておいた方が、また来るきっかけになろうだろう。ちょっとステップアップできたような、そんな気がする前尾根だった。