谷川岳一ノ倉沢衝立岩雲稜ルートを登りに行きました。ルートを間違えて途中敗退という結果でしたが、今後登られる方の参考になるかと記録を残しておきます。
谷川岳の雲稜第一ルートは、衝立岩の初登ルートにして名クラシックとされ、かつてはよく登られていたようですが、崩壊と支点の劣化が進み、近年は2年に1回くらいしか登った記録が見られない状況になっています。時間がかかることも予想されるので、日が長く、雪渓でアプローチ時間を短くできる初夏に予備日を含めた2日間で計画し、1年前は天候が合わず見送り、ようやく今年チャレンジすることになりました。メンバーはFさんと私シンの2人です。
前夜に横浜を出発し、ベースプラザで30分弱だけ仮眠して、2:30に出発。一ノ倉沢出合でハーネスと一部のギアを着け、少し沢を進んだ所から雪渓に上がって軽アイゼンを着けました。テールリッジ末端に着く頃にちょうど明るくなり始め、衝立岩の三角錐の壁が姿を現しました。予報通り、良い天気です。
テールリッジを突き当たりの中央稜取付まで進みます。見上げる衝立岩に朝日が当たり始めました。壁の大きさと間近に寄りすぎて距離感がよく分からなくなってきます。
中央稜取付で残りのギアを装着して、アンザイレンテラスに向けてトラバース。中央稜取付から少し引き返して下りた所から、切れ切れにフィックスが続いています。
衝立スラブを少し横切ってからブッシュに入り、藪の中を登るフィックスロープにプルージックを取りながら上がっていくとアンザイレンテラスに到着。思ったより狭く、ここでフラットソールに履き替えて登攀開始です。
1P目(V-/25m)、私のリード。アンザイレンテラスから真上にリングボルトが見えていますが、少し左にトラバースした凹角がよく登られているようで、確かに左上していくと浅い凹角に支点が続いています。出だしこそ難しくありませんでしたが、中間部辺りから悪くなり、小指の太さもない灌木を掴んだり、早速A0にしたりと、本当にV-?という感じでした。途中のクラックでカム(#1)を使用。最後は岩の上に載った草付きをそっと持ちながら這い上がって、1P目終了点の二人用テラスに到着。初めからこれでは先が思いやられる…
2P目(IV,A2/45m)、Fさんのリード。ここでルートミス。雲稜第一の正しいルートは二人用テラスから一旦左に出て直上し、右にトラバースして頭上の第一ハングを越えるのですが、右手に続くハンガーも含めた綺麗な支点に誘われて右上してしまいました。アブミを使った人工登攀になりますが、支点は比較的しっかりしていて安心感があります。
ハングが切れているところを右から回り込むようにして上がっていきますが、この先が一気に支点が乏しくなり、Fさんがハーケンを打ってなんとか突破してくれましたが、2人合わせてこのピッチに2時間半を要し、早くもビバークが頭をよぎり始めます。
ハングを抜けてすぐの所にも確保支点がありましたが、Fさんはさらに上まで登ってくれていて、岩に突き当たったところの確保支点まで伸ばして約45mでした。
3P目(A2)、私のリード。ここは頭上にハングがのしかかる行き止まりのような場所で、支点は直上するラインと、右にトラバースするラインがありましたが、どちらもかなりかぶっている上に支点が貧弱で厳しそう。3P目は右上するはずと思っていたのと、比較的まともな支点が続いているように見えたので右を選択しましたが、ここは衝立岩最大とされる大ハングで、直上がミヤマルート、右が雲稜第二ルートだったと思われます。
支点はまともな物の方が少ない状況で、ハングの出だしから、半分くらいしか入っておらず体重をかけると撓むハーケンやら、リングボルトのリングがなくなって細いスリングが通されているものなど、一つ一つ慎重に確認しながら進んでいきます。中には、劣化が進んで腐敗した木材のようになり触っただけで崩れるカラビナや、体重をかけるとぷちぷちと繊維が切れる音がするスリングなど、何十年前からここにあるのか得体のしれない物もあります。リングのないピンにナッツのワイヤーやスリングをタイオフしたり、わずかなクラックにカムを決めたりしつつ、交互にアブミを掛け替えながらじわじわ前進しますが、なかなか進みません。
頭上が開けてそろそろハングを抜けられるか、というところで上に見るからに劣化が進んだハーケンが出てきました。とても体重を支えられるようには見えないので、少し下のわずかなクラックに#0.1のカムを決めてアブミをかけて乗り込みましたが、その次の支点までが遠く、なんとか手を伸ばそうと試行錯誤していると…
バチン!という音とともに、今まで張り付いていた壁が遠ざかり、数メートル落ちて止まりました。カムが抜けて、バックアップとしてかけておいたハーケンも当然のように破断していました。ダブルロープの1本はリングのないピンにタイオフしたスリングで、もう1本はマイクロカムで止まっていました。
宙吊り状態からロープをつかんで壁に戻り、登り返そうとしましたが、腕力の使い過ぎと水分不足のためか前腕がつり始め、上まで抜けられる気がしません。Fさんが「撤退も視野に」と声をかけてくれて、ギブアップを申し出ました。比較的まともなピンにカラビナを1枚ずつ残置してロワーダウン。ハングをトラバースしているので戻れるか心配しましたが、ビレイヤーのFさんも協力してくれてなんとかビレイ点に戻れました。
3Pの懸垂下降でアンザイレンテラスの下のトラバース道まで下り、中央稜取付まで戻ってようやく一息。あらためて壁を見上げて、ルートを外れたのがだんだんと分かってきました。
ルートについては事前にだいぶ調べたつもりでいたのですが、衝立岩の全体像やスケール感があまり理解できていなかったのが原因だと思います。かつてはたくさんのルートが拓かれた歴史のある壁なので、いろいろな所に残置支点があります。谷川特有の岩の脆さや草付きなどの悪さ、劣化した支点で人工登攀するリスクは結構なもので、すぐに雲稜第一にリベンジしようという気が起こらないのが正直なところですが、とにかく無事に帰れて良かったです。
【行程】ベースプラザ(2:30)-一ノ倉沢出合(3:00/3:30)-テールリッジ末端(4:00)-中央稜取付(4:30/5:00)-アンザイレンテラス(5:30/6:00)-1P目終了点(6:45)-2P目終了点(10:00)-懸垂開始(12:30)-一ノ倉沢出合(17:00)-ベースプラザ(18:00)
シン