2024/10/12 谷川岳一ノ倉沢本谷~4ルンゼ

2024/10/12 谷川岳一ノ倉沢本谷~4ルンゼ

谷川岳の一ノ倉沢本谷に行きました。

一ノ倉というと岩壁のマルチピッチルートのイメージがありますが、数年に一度だけ雪の少なかった年には本谷を遡行できるというのを知り、以前から行きたいと思ってました。近年は温暖化のせいか、毎年のように雪が消えているようですが、特に雪が少なく夏は猛暑だった今年は行けるだろうと計画を立てました。実際、今年は9月にすでに雪は消えていたようです。2日前から雨は降っておらず晴天予報と良い条件で、メンバーはFさん、もちさん、シンの3人です。

前夜に横浜を出発して、紅葉シーズンでベースプラザの駐車場が夜間閉鎖されているので、ビジターセンターの方に止めて仮眠。4:30に出発しました。

一ノ倉沢出合に着く頃には明るくなってきて、ここでハーネスとギアを着けて入っていきます。通常、雪渓の消えた秋シーズンは右岸の巻き道に入りますが、今日は沢装備なのでそのまま本谷を進みます。

モルゲンロートに染まる一ノ倉
右が衝立前沢

右から衝立前沢が合流するところで、数mの滝が現れます。今のところほとんど濡れずに来ているので、できれば濡れたくないもちさんと私は左壁のスラブから上がりましたが、Fさんは果敢に腰まで浸かって突破。

衝立前沢出合の滝

その上のヒョングリの滝を右から巻いて上がる所が少し悪く、ロープを出しました。

ヒョングリの滝の上

上がった所が、通常テールリッジにアプローチする時に右岸のリッジから懸垂下降で下りてくる地点で、テールリッジの末端になります。ここまで先月の変形チムニーを登った時のルートと交錯するように登ってきましたが、ここからは初めて足を踏み入れるエリアになります。

ヒョングリの滝から本谷を見上げる

ヒョングリの滝の上にはプールのような釜と滑滝が連続していて、ここは右岸から巻きます。ロープは出しませんでしたが、高度感があり落ちるとただでは済まないので慎重に進みます。まばらですが残置ハーケンがあるので、ロープを出すのも選択肢だと思います。

美しい連瀑帯ですが、あまり愛でている余裕はない

その先で沢底に下り、V字の溝を突っ張りで進むところが楽しいポイント。

V字の溝から上がると、青空と衝立岩の下に雪崩に磨かれた広大なスラブが広がります。この景色を見たかった!

海原のようなスラブをフリクションを活かしてどんどん登っていきます。もちさんと私はラバーソールでしたが、フェルトソールのFさんはちょっと怖かったようです。一歩滑るとどこまでも転がり落ちそうなので気を抜けません。

やがて、谷は右にカーブしながら切り立った谷間に吸い込まれていき、行く手に幻の大滝(20m)が見えてきました。雪が少ない年だけ姿を現すので幻と言われてます。

手前の滝は左手のクラックから上がり、その奥が大滝

幻の大滝は一般的には左壁の階段状のクラックに沿って登りますが、知り合いのUさんをはじめ、直登した記録もちらほら見られます。今回、直登にチャレンジするかは決めていなかったのですが、百戦錬磨のサワグルイさんをもってして「水線突破した人は(良い意味で)変態」と言われており、しかし先月の変チでOさんから変〇の称号を授かった我々はむしろ行くべきではないのか、今日は水量も少なくてチャンスなのではないか、などと悩んでおりましたが…。

Fさんは「お好きな方で」と言ってくれましたが、Fさんももちさんも左壁には目もくれず、濡れて黒々とした大滝のラインを目で追っている! …仕方ない、覚悟を決めてフラットソールに履き替え、レインウェアを着て、ザックは置いて空身でトライです。

釜は膝上くらいの深さがあり、あわよくば濡れずに行けないかと左壁の細くて浅いクラックに指をかけてへつりを試みましたが、足のスタンスがなくてドボン。開き直って釜に入り、ステミングで上がっていきます。中間部の白い縦長の岩の下のチョックストーンにタイオフして1本目のランナーを取り、白い岩にカムも決めて、まずは一息。

白い岩に乗り上がってからが問題。チムニーは上に向かって広がっていて、さらにかぶり気味。バックアンドフットからステミングでじわじわ上がっていき、左側にはまった拳くらいの黒いチョックストーンにタイオフでランナーを取って、この岩を手掛かりに左上したいのですが、限界まで脚を開いたステミングから左足を置きたい左壁がぬめっていてここで2回フォール(谷川のぬめりは強烈!)。1回目は最後に取ったボールナッツ(赤)が抜けて結構落ちましたが、幸いどこも打ちませんでした。2回目はマスターカム#0が効いたので、少し勇気が湧いて、左上の縦長ホールドを取ってチョックストーンに右足を上げられました。

核心は中央の濡れて光っているつるりとした岩を右上して落ち口に越えるところ、右手はかかりますが少し甘い、足場はない、そしてプロテクションはマイクロカムとかボールナッツ(黄)とか、浅い溝にかろうじて決めた#0.75とか頼りないものばかりで落ちたら抜けるかも? しかしためらっていても濡れて冷えてくるばかりなので、思い切って右足を落ち口に飛ばして乗り込む。なんとか無事突破。

落ち口の先で、カム#1と#0.5で支点を構築して、3人分のザックを荷揚げして、2人に登ってきてもらいました。体感V級くらい?ですが、濡れとぬめりとオールナチュプロのため、なかなかのプレッシャーでした。

大滝と格闘している間に、後続の2人パーティが左壁から登って上をトラバースしていき、この後このパーティとは前後しながら進みました。私達は大滝の落ち口からもう1段滝があり、ここはFさんリードでもう1ピッチ。下の写真の位置から右へのトラバースが結構シビア。

これを上がると再び広大なスラブ帯。フラットソールのまま上がっていきますが、下のスラブよりやや傾斜があり、エンドレスIII級という感じ。ロープを出すほどではない(ランナーも取れない)ですが、気の抜けない登りが続きます。

左手に暗く傾斜の強い2ルンゼを見ながら本谷を登っていくと、岩質が黒っぽく変わり、谷が狭まって4ルンゼに入ります。F滝からF5滝まで6つの滝があることになっていますが、実際には小さい滝が連続していて、どれがどれだか判別しにくいです。どこまでロープを出すかも悩ましい所で、フリーで行ったり(出した方が良かったと思ったり)、3人で交替でリードしながら登っていきます。

F2滝?

F4滝(30m)は行き止まりにある草木が茂って水流のない奥の壁ではなく、少し手前の右壁を逆くの字に登りました。残置ハーケンが数本ありました。なるべく流れに気を遣ったつもりでしたが、屈曲してロープが重かった!

F4滝の右壁、この後左上して落ち口へ

その後も深く切れ込んだ谷底に小さな滝が次々と出てきて、直登したり小さく巻いたりしながら上を目指します。

ようやく連瀑帯を抜けて草付き混じりのスラブ帯へ。ここもエンドレスIII級な感じで、ロープはしまって、ひたすら登り続けます。

ついに水流が消えたあたりで沢靴に履き替え、段々と草付きの割合が多くなってくる斜面を登りやすそうなところを探しながら、まだまだ登ります。

最後は笹藪に突入。傾斜が強く足が止まりにくいので、腕力頼みで上がっていきます。

笹藪の中を右上していくと、一ノ倉尾根の踏み跡に出てぐっと楽になりました。もう少し手前から尾根を目指した方が早かったかもしれません。

17時にようやく稜線の登山道へ。明るいうちに抜けられて良かった。

一応、すぐ近くにある一ノ倉岳の山頂まで行って装備を解き、下山開始。すぐに暗くなってしまったので、岩場のリスクのある西黒尾根は避けて天神平から田尻尾根経由で下山。

一ノ倉沢本谷は、想像していた通り、美しく、そして気の抜けない長丁場でした。さらに幻の大滝登攀まで加わって、とても記憶に残る山行になりました。Fさん、もちさん、ご一緒いただきありがとうございました!

【行程】ビジターセンター(4:30)ー一ノ倉沢出合(5:30/5:45)ーヒョングリの滝(6:40/7:20)ー幻の大滝(8:00/9:20)ー4ルンゼF滝(11:20)ー一ノ倉岳(17:00/17:30)ービジターセンター(22:00)

【装備】50mダブルロープ×2、フラットソール、カム1セット(C4#0.3~1)、マイクロカム1セット(マスターカム#00,0,1)、ボールナッツ、ハーケン等

シン