各地で雪崩被害が相次いでいる。雪崩被害にあった人の約半分は死亡してしまうらしい。よって被害者から直接体験談を聞くことは難しい。いったい雪崩に対してどう対処すべきなのか? 正にそれを考えるために、毎年恒例の深雪(ふかゆき)訓練を1泊2日の行程で、谷川岳西黒尾根で行った。初日は予報通りの吹雪スタートだった。
9時半谷川岳ベースプラザ集合だったが、前夜発組は8時頃先に出発することに。6階の出口でビーコン動作チェック。会長がSearchモードにした状態で、各メンバーがSendモードで会長の前を一人ずつ通り、ちゃんと受信できているかをチェックする。ちなみに、ビーコンのバッテリー残量は、BARRYVOX(超ド定番ビーコン)の場合、電源ON時に一瞬表示される。もっといつでも簡単にチェックできるとありがたいのだが…。私のBARRYVOXは今期5日使用したが、今日のスタート時点でのバッテリー残量は90%だった。
今年は雪が少ないが、指導センターまでのアスファルト道にもこの降雪で雪が積もっていた。
とはいうものの、この降雪をもってしても、例年より圧倒的に雪が少なく、西黒尾根登山口の道標はしっかり見えていてた。
しかしスタートすると、それなりにラッセルになる所も。
午前10時半過ぎに、訓練地の二股の尾根が合流する地形の所に到着。雪庇を崩すように、二股の間の浅くなった谷に下り、しばし休憩。
深雪訓練の一つ目のテーマは雪同堀りだ。雪洞を掘るのは今回が初めての私は、休憩もそこそこに北側の尾根の下を掘り始めた。コツは、最初はまっすぐ掘り進め、その後は上に広げていくことだ。しかし、何でも欲張りすぎる癖のある私は、入り口部分を大きく掘り過ぎてしまう。「それだと、夜寒いですね」とアドバイスを受けた。「後で埋めることになりそうですね」。その後も、一心不乱に掘り進めていると、「バサッ!!」。突然、掘り進めた雪洞が崩壊し、生き埋めになってしまう。「おー!これが雪崩に巻き込まれる感覚か!」とは冷静になれず、一瞬何が起こったか分からずパニックになる。幸い、手が少し動いたので自力脱出した。自分より山側で同じく雪洞を掘っていた他のメンバー3人も同様に埋まっていた。自分の雪洞だけが掘り過ぎて壊れたと思っていたが、尾根の上の雪庇が崩壊して、辺り一帯が雪崩れた状態になっていたことを知る。埋まったメンバーのうち1人は自力脱出不可で、その辺りで唯一体が自由になっていた会長が救助に向かい、無事救出した。「やはり今日は雪洞は危ないですね😓」と、雪洞泊はリスクが高過ぎると会長が判断した。「あっちのイグルー作りに合流しましょう」と雪洞を掘っていたメンバー全員で場所を移動した。「確かに夜寝ている時に生き埋めになったら…」と思うと、好奇心は恐怖に勝てなかった
大型イグルーを作るのは、この降りたての雪質では難しかったので、上からタープなどを掛け天井を塞いだ。また12人を収容できるサイズではなかったので、念の為に持って来ていたテントも設営した。
完全に私の過失だが、4テン(写真上の奥のテント)を仮置きし、黙々と穴を掘っている時に、強風のせいでテントが飛ばされてしまった。穴を掘る手を休めふと後ろを振り返った時、テントが消えているのを見て愕然とした。幸いベテランのFrさんとNbさんが咄嗟に反応し、谷底に流される寸前だったテントを救出してくれた。強風時に設営前のテントから決して手を離してはいけないということを肝に銘じた。
寝床の準備が整ったので、少し休憩を挟み、肝心の訓練を始めた。まずは宴会場にみんなで集まり、ベテランのNbさんが雪崩に遭遇した時の大まかな行動の説明、ビーコンの使い方を説明してくれた。
まずは、埋没体験を行う。実際に棺桶ような穴を掘り、そこに埋まってみて、いかに少し雪に埋まっただけで動けないかを体験する。
まずは埋没体験の見本に、Nbさんが自ら埋まってくれる。小型のトランシーバーを持ちながら、気道を確保し、かつ30センチだけ埋めるという安全な方法ながら、見ていて少し怖くなる。プローブを使い、人をつつく感触も味わわせてもらった。次は新人の僕が、埋没させてもらう。ほんの30センチなのに、雪の重みがずっしりと背中にのし掛かったのには驚いた。「これじゃ50センチも埋まれば簡単に死ねるな…」。その後ビーコンを使って、雪の中に埋めた荷物を探り当てる訓練をしたが、意外に見つからない。切羽詰まった状況で、果たしてちゃんと埋没者を見つけられるのかと不安にならざるを得なかった。やはり、こういう訓練を定期的に行うことが大切なのだろう。
今日は寝床作り手こずったので、訓練もそこそこに、午後4時頃には宴会へと移行する。鍋担当の先輩方が準備をしてくれた。暫くして、家族のように「ご飯だよ~!」と呼んでもらい、12人全員で宴会場に集まった。今までに経験したことのない、雪山ならではの鍋料理とお酒をみんなで味わう。仕事でもプライベートであまり団体行動をしたことのない僕には、とても新鮮で楽しい時間を過ごさせてもらった。
いつの間にか荒天はおさまり、夜は満天の星空になっていた。
翌朝は、予報通り最高の天気になった。元々の計画では、荷物を担いで山頂に行き、田尻尾根から下山する予定だったが、ここに荷物をデポし、西黒尾根ピストンに切り替えた。午後には天気が崩れる予報だったので、最短で下山できるようにとの判断だった。2週間前に行ったばかりだが、やはり西黒尾根は気持ちよかった。前回は雲海が美しかったが、今回は雲1つなく、周囲の山並みが本当によく見えた。山頂は当然最高で、みんなでトマの耳の山頂標識の前で記念撮影。登った7人の内、僕を含めて3人でさらにオキの耳へと足を伸ばした。また、初めて西黒尾根の「下り」も経験でき、大満足な2日間となった。