穂高の屏風岩に登ってきました。
上高地から涸沢に向かう道中で目にする屏風岩。「一度は登ってみたい」と思っていて、Fさんを誘ってジムや三つ峠で練習し、秋分の日の三連休でいよいよ挑戦しました。
初日は朝まで雨。今日は横尾までなので、沢渡の駐車場でゆっくり上がるのを待ちました。同じ日程で滝谷を目指すせんさん夫妻は北穂まで上がらなくてはいけないので、先に出発していきました。同じ日程で穂高に入って滝谷と屏風なんて、山岳会みたい!?
9:50発のバスでゆっくり上高地に上がると雨も上がって青空が広がってきました。しかし、河童橋の下を流れる梓川は明らかに水量が多く、アプローチの渡渉が不安になります。とりあえず、横尾を目指します。
横尾にテントを張って、早速偵察に向かいました。
岩小屋跡の所で渡渉点の横尾谷に出てみると、中州までの手前側は簡単に渡れますが、向こう側の1ルンゼ押し出しとの間はとうとうと水が流れていて、とても渡れません。
少し上流に行くと、うまい具合に丸木橋がかかっていましたが、「渡れなくはなさそうだけど・・・」という感じ。できれば他に簡単に渡れる場所はないかと、上流と下流をかなりの距離歩いてみましたが、どうやら他に渡れる場所はなさそう。丸木橋を渡れるか試してみることにしました。念のためロープをつけて(落ちるのは防げませんが、流れ止めに)、私が立って渡ろうとしてみましたが怖くて断念。続いて、Fさんがまたがって少しずつ前進する作戦でどうやら渡れそうなことが分かりました(Fさんいわく、グレードはⅢ-)。明朝水位が下がっていれば渡渉、無理なら丸木橋を渡るということに決めて、偵察終了。
横尾のテント場に戻って夕食の準備をしていると、やはり明日雲稜ルートを登る予定のパーティの方に話しかけられて、どうやら明日は5パーティが雲稜ルートを目指す予定らしいと教えて下さいました。もし渋滞で厳しそうなら東稜に転進かな、と話しながら18時台に就寝。
翌朝は4時に出発。ヘッドライトをつけて渡渉点まで行くと、他にも渡渉点を探しているパーティのライトが動いてました。水位は昨日より下がっていて、Fさんが渡渉を試みましたが、まだ深くて水の勢いも強くて断念。丸木橋に移動しました。ロープを出して、Fさん、私の順に無事対岸に渡りました。
河原を1ルンゼに向かって歩きますが、途中で大岩に遮られ、笹薮の中を高巻き。河原に戻って、1ルンゼ押し出しに着きました。水のない1ルンゼの細いガレ場を登っていくと、夜明けの空の中にそそり立つ屏風岩が見えてきました。あれを登れるのか・・・?と緊張感が高まってきます。
屏風岩基部のT4尾根取り付きに着くと、昨日偵察時に見かけた3人パーティが準備中でした。お話を聞くと、なんと昨日は本谷橋まで登って対岸に渡り、3時間かけて1ルンゼまで下ってきたとのこと。お疲れ様です・・・。私達は大阪からいらっしゃったこの3人パーティの次ということになり、予定通り雲稜ルートを目指すことにしました。
T4尾根はアプローチといいつつも、1P目はⅣ級、2P目はⅤ級と十分登攀です。大阪パーティに続き、私の先行でスタート。後ろからは、「フリークライミング(東壁ルンゼ上部のフリー化)」を登るという3人パーティが登ってきました。
2Pをつるべで抜けて、その上の樹林帯はコンテで進み、上部の短いチムニー(Ⅲ)はフィックスが垂れていましたが念のため確保して上がると、2張りほどなら張れそうなT4に着きました。1P目(5.7,45m)は巨大なディエードル、結構立ってます。天気は快晴!日差しを受けた屏風岩は暖かく、Tシャツ1枚で登れます。
私のリードでスタート。2箇所ほどチムニーのようになっていて、左壁のホールドが乏しくステミングでじわじわ上がります。先行パーティがピナクルの少し下で切っていたのでそこでビレイ。
2P目(A0,35m)、ピナクルからフェースを上がりますが、先行パーティのロープの出具合からも難しそう。Fさんリードで取り付きましたが、やはり難しい様子。リードを交代して登ってみましたが、ピナクル上の垂壁を上がった後の右へのトラバースがホールドが細かく確かに難しい。あまり時間をかけてもいられないのでA0トラバースで突破。フェースを右上して、さらに凹角を左上すると扇岩テラスに着きました。
3P目(A1,35m)、つるりとした垂壁で、フリーで登ると11cもあります。もちろん登れないので、アブミを使います。リングボルトのリングがなくなって細いスリングが通されていたり、小さな金具がつけられていたりという支点もありますが、間隔は近く3段目からでも届くのが多いです。フリー化のボルトにもランナーを取れるので安心感があります。全部ランナーを取っているととても足りないので、1本おきくらいに取っていきました(今回はヌンチャク14本)。1箇所だけアブミの最上段に立つ所がありましたが、三つ峠のA1より易しく感じました。
4P目(A1,30m)、右手のフレークを少しフリーで登った後、上の脆いハングを再びアブミで登り、細いバンドを右にトラバース。「怖いトラバース」と言われてますが、上がかぶり気味でスペースがなく確かに怖い。Fさんが頑張って抜けてくれました。
5P目(A1,40m)、テラスからしばらくブッシュを上がって東壁ルンゼに入ってこれを左上。出だしは凹角のクラックを使って登っていきますが、最後は黒くぬめったスラブでフリクションゼロ。こんなところで無理しても仕方ないのでここもアブミで突破。もうなんでもありな気分です。
6P目(Ⅳ,35m)、白くきれいな凹角のスラブ。セカンドなので頑張ってフリーで上がりましたが、Ⅳ級かなあ・・・?
屏風の頭に抜ける先行パーティはさらに登っていきましたが、私達は同ルート下降なのでセオリーに従い最終ピッチは割愛してここで登攀終了。Fさんが調べてきてくれた下降ルートに従って懸垂を開始しました。地上は遥か下です。
右手を見ると、東稜ルートを登っているパーティが見えました。こちらもすごい高度感です。
懸垂3Pで扇岩テラスに下り、さらに斜め下の大テラスへ。大テラスから見上げる扇岩はあんなに薄っぺらい。
情報ではこの少し下の支点から4P目を降りていましたが、大テラスの上の壁には立派な支点があったのでそれを使いました。T4まで届くか微妙でしたが、50mでぎりぎり到達。これは良かったと思ったのもつかの間、ロープを回収しようとしたら5mほど引いたところで全く動かなくなってしまいました。
これは困った。片方の末端は屏風岩の垂壁上にぶら下がっていて届きません。幸い、壁には人工用のリングボルトが打ってあり(蒼稜ルート?)、こちらにはアブミがあります。アブミとセルフの掛け替えで登って末端には届きましたが、やはりスタックは解消できません。これ以上無理に引っ張って回収不可能になっても困るので(ロープがないとT4尾根を降りられません)、登り返しすることにしました。よりによって屏風岩で50m登り返しとは・・・。
スタックの原因は、大テラス上でロープが交差してしまったためと思われ、大テラスの下の支点で取り直して懸垂し、無事回収。やはり下の支点が正解だったということか。
日没が迫る中、T4尾根を懸垂5Pで下り、どうにか光が残っているうちにT4取り付きに戻りました。ヘッドライトをつけて1ルンゼを下降。
渡渉点に降り立つと、手前の水位は脛程度で朝より下がっていそう?中洲側がやや深そうですが、行きと同じ丸木橋を渡るには大岩の高巻きを戻るのがちょっと大変そうでできれば渡渉してしまいたいところ。念のためズボンを脱いで、枝を杖代わりにして渡渉を敢行!
水は冷たいものの、真ん中までは順調に行きましたが、最後は思っていたより深く、水勢も強くて杖も役に立たないほど。腰まで水につかり、水の中に手をつきながらどうにか対岸に上がりました。Fさんも腰上まで濡らしながら無事渡渉しましたが、二人ともだいぶ濡れてしまいました。渡渉を甘く見てはいけませんね。
19時過ぎに横尾に帰還。夕食を終えても乾いていない服が冷たかったものの、15時間行動の疲労が寒さを上回り、すぐに寝てしまいました。
翌朝は始発のバスを目指して上高地へ。バスターミナルに着くと、無事滝谷を登って前日のうちに徳沢まで降りていたせんさん夫妻が待っていました。
A0,A1何でもありになりつつも、見上げるだけだった憧れの屏風岩を登れたという実感が後から湧いてきました。丸木橋、人工登攀、渡渉など盛りだくさんのアドベンチャーに付き合っていただいたFさん、ありがとうございました! それにしても、このルートが初登ルートとは、初登者の南さんパーティは本当に天才だったんだなと感じました。
9/22 上高地(10:30)-横尾(12:30)-渡渉点偵察-横尾(15:30)
9/23 横尾(4:00)-1ルンゼ押し出し(5:00)-T4尾根取り付き(5:30)-T4(7:30)-懸垂開始(14:00)-T4尾根取り付き(17:45)-横尾(19:10)
9/24 横尾(5:35)-上高地(7:20)
シン